革の経年変化を楽しむ vol.1
今回は革のエイジングについて、その仕組みや楽しみ方を書いてみようと思います。
ちょっと長くなるので、2回に分けてまとめます。
前編では、エイジングとはそもそも何なのか、どういう仕組みで起こるのかを見ていきます。
後編では、お客様や自分たちが愛用しているアナロジコの鞄や革小物の経年変化の様子をご紹介します。
アナロジコの代表作、四角リュックも1年半ほどの使用で、これくらいの味のある経年変化を楽しめます。(左が新品、右が1年半使用した四角リュックです。)
まずは、レザーエイジングの仕組みについて見てみましょう。
ナチュラルレザーならではの味わい深いエイジング
革製品を使う醍醐味は時を重ねて色艶が増し、味わい深い経年変化が楽しめること。
しかし、一口に革といっても、全ての革でエイジングが楽しめるわけではありません。
革は、動物の皮を処理して腐らないようにし、耐久性を高めた素材です。この処理というのが、”鞣し(なめし)”のことです。
“かわ”という漢字は2種類ありますが、なめす前の、そのままでは腐ってしまう”かわ”のことを「皮」と書き、なめした後の、革製品の素材として使える”かわ”のことを「革」と書いて区別されています。
皮をなめす時、皮のコラーゲン繊維になめし剤を浸透させるのですが、そのなめし剤の種類により大きく分けて次の二つの種類の革に分類することができます。
・植物タンニンなめし革(ナチュラルレザー)
・クロムなめし革
植物タンニンなめし革
一つは、ミモザやオークなどの植物から抽出したタンニン(渋)を用いて革を鞣す、植物タンニンなめし革。ナチュラルレザー、ベジタブルタンニンなめしレザーとも言われます。
古代から行われてきたなめし製法で、濃度の低いタンニン槽に漬け込むことから始まり、徐々に濃度の高い溶液に漬け込む、という工程を重ねます。また、牛脂などのオイルも浸透させ、じっくりと時間を掛けて皮をなめします。
アナロジコで扱うミッスーリレザーはイタリア植物タンニンなめし革協会に所属するタンナーで作られており、昔ながらの伝統的な植物タンニンなめし製法により鞣された、正真正銘のナチュラルレザーです。
クロムなめし革
もう一つは、化学薬品の塩基性硫酸クロムを使ってなめされた革。短時間で革をなめすことができ、軽くて柔らかくて丈夫な革を作ることができます。
車のシートや衣類、もちろんバッグにも使われます。植物タンニンなめし革よりもコストがかからず、大量の革を作れるため、世の中に流通する革の実に9割以上は、このクロムなめし革なのです。
エイジングを楽しめるのは植物タンニンなめし革だけ
味わい深い経年変化は、タンニンの変化と、革に含まれる油分がポイントとなります。
ですので、エイジングを楽しめる革とは、まず、タンニンと油分を含んだ植物タンニンなめし革(ナチュラルレザー)であることが大前提となります。
それぞれの革の質感の違いが分かりますか?
左がクロムなめし、右がアナロジコで使うミッスーリレザーで植物タンニンなめしの革です。
クロムなめしは柔らかな革に仕上がり、植物タンニンなめしはクロムと比べると硬く、張りがあります。
革色の変化と艶の正体は?
ナチュラルレザーに含まれるタンニンは、紫外線に当たったり、空気中の酸素に触れることで酸化して色が変化します。
タンニンを多く含む食物に柿がありますが、柿を干して渋柿にすると、色が濃く変わるのと同じです。また、ワインといえば、ポリフェノールですが、タンニンはポリフェノールの化合物で、熟成させたワインほど色が渋く、濃くなるのもこれと同じ仕組みです。
革が日焼けする、と言ったりしますが、人間の皮膚が紫外線によって日焼けするのとは全く異なる仕組みで、革の色は変化しているのです。
アナロジコのミッスーリレザーは、オイルをたっぷり含んだ植物タンニンなめし革(ナチュラルレザー)です。手でつまんだり、革の裏から指で押すと革の繊維に含まれた油分が内部で移動して革の色が変化するのが分かります。
こうしたオイルをたっぷり含んだナチュラルレザーのことを特に「プルアップレザー」と呼びます。
このオイルのおかげで、使い込んだ時にとても美しい艶が生まれるのです。
写真は友人が3年間毎日使ったラウンドファスナー長財布。
革はミッスーリレザー、革色はナチュラルです。右奥の新品の革と比べると、色、艶ともにずいぶん変化していることがよく分かります。
日常の使用の中で、手で触れたり、紫外線に当たるなどの刺激を受けて、革の繊維に浸透している油分は徐々に革の表面に滲み出てきます。
また、革製品に触ることで、人の手の油分も革に吸収されます。
手で触ったり、布で磨くなどの手入れをすることで、革の表面はこれらのオイルでコーティングされていきます。
これが革の経年変化によって得られる”艶”の正体です。
さて、かっこいいエイジングは、植物タンニンなめし革特有のものであることが分かりましたが、植物タンニンなめしの革なら何でもエイジングが楽しめるわけではありません、、!
どのように革に色を付けているか、つまり、皮をなめした後の、仕上げの方法がとても重要なのです。
色付けには次の二つの方法があります。
・染料による色付け
・顔料による色付け
それぞれの方法についてみて見ましょう。
染料による色付け
染料による色付けは、藍染めや紅茶染めなどをイメージしていただくと分かりやすいのですが、色のついた液体に革を浸して、革の繊維の奥まで色を染み込ませる方法です。
色は付けるものの、染料は透明度が高いものなので、革の風合い(肌目など)を残した状態で革が色付けされます。
顔料による色付け
一方で、顔料による色付けはペンキ塗りのようなもので、革の表面を覆い隠すように、色をかける方法です。顔料は不透明なものなので、革の地の色に左右されずに、ムラなく思い通りの色に仕上げることができ、革のキズなどを隠せるメリットもあります。
ちがいは分かりますか?
左は顔料仕上げの革、右はアナロジコで使うミッスーリレザーで、染料仕上げの革です。
顔料仕上げの革は均一に色が付けられていて、顔料の色がそのまま、革の色となります。
染料は透明度が高く、革そのものの色や表情、キズの状態も仕上がりに影響します。
そのため、染料仕上げでは、鮮やかな色を出したり、色味をコントロールするのが非常に難しく、高度な技術が必要です。
アナロジコのミッスーリレザーも、イタリア、トスカーナの熟練の革職人(染め専門の職人)によって美しい色に仕上げられているのです。
どちらが経年変化を楽しめる革なのか、もうおわかりですね。
革そのものの表情を残した染料仕上げであることが、エイジングを楽む、もう一つの重要な条件なのです。
どちらが”きれい”な革なのか?
さらに詳しい話になりますが、顔料仕上げと染料仕上げとどちらの原皮(げんぴ)の方が質が良いのか、について少し触れておきたいと思います。
革の原料となるのが「原皮(げんぴ)」です。多くの場合は牛の皮ですね。アナロジコで使っているのも全て牛革で、食用牛の皮が原材料です。
この、もともとの皮の状態、分かりやすく言うと染色や表面処理などの化粧を落とした”スッピン”はどっちがきれいなのでしょうか?
顔料で色付けされた革は色ムラもなく均一という意味で、とてもきれいな仕上がりです。一方で、染料で染めた革は、仕上がりに色ムラもあり、キズなどもそのまま残ります。
しかし、もともとの原皮の状態を見てみると、染料仕上げの革に使われるものの方が質がよく、きれいなのです。
アナロジコで使っているイタリアンレザー、ミッスーリは、鞣し(なめし)は全てイタリア、トスカーナで行われていますが、原皮はフランス産です。
食用として放牧されている牛ですが、フランスの広々とした牧草地帯で、ストレスの少ない環境で育てられているため、気性も穏やかで生きている間に体につくキズが少ない牛なのです。(それでも、動物ですので当然キズや虫刺されの跡はつきもので、革となったあともそうした生きた痕跡が目に見える形で残ります。)
薄化粧=染料による色付けでもOKな革、ということです。
ナチュラルレザーを作るイタリアのタンナー(革のなめし工場)は、このような質の良い原皮の中からさらに状態の良いものを選別するので、こうして作られる革は他の革に比べてとても高価になります。
一方で、顔料仕上げに使われる原皮にはもっとたくさんのキズがあります。わざわざ品質の良い高価な原皮を使わなくても、顔料で革の表面を覆えば、きれいに仕上がるからです。
仕上がりに影響がなければ、できるだけコストを抑えられる原皮の方が良いでしょう。つまり、フランスの牛のように広々とした牧草地帯で穏やかに育つのではなく、もっと狭くて牛にとってストレスのかかる場所で飼育されている場合が多く、肌目が粗く、生きている間に体についてしまうキズも多いのです。
きれいに化粧をした、キズが全く見えない仕上がりの革を選ぶか、薄化粧で、生きた痕跡を残した仕上がりの革を選ぶかは好みの問題なので、どちらが良いというわけではありません。
ただ、アナロジコでは自然な風合いを残した革、そして経年変化を存分に楽しめる革を良しとしています。
こうした考えのもと厳選した革が、イタリア、トスカーナのタンナーLa Perla Azzurraのミッスーリレザーなのです。
La Perla Azzurraのマッシモ社長とは定期的に会い、革のことは何でも相談しています。自分で本当に良いと思う革を仕入れるのに妥協はありません。
さて、次回は実際にお客様や私たちが使っているナロジコの鞄や革小物のエイジング具合をご紹介します。
(写真:カシメミニ財布 コニャック/使用歴8ヶ月)
ご紹介する革鞄、革小物は使用期間数ヶ月から数年まで様々。
使い方によって経年変化の仕方も変わるのが、ナチュラルレザーの面白いところです。
その魅力については、後日、後編でお伝えします。
後編はこちら